Next: 過去数年間の論文リスト Up:
研究 Previous: 研究
日震学・星震学
近年,精密な観測により,太陽を始め磁変星,白色矮星,早期型星等のいろいろな恒
星で振動が発見され,様々な固有振動モードが励起されていることが明らかになってき
た。これら多数の固有振動を利用して,直接調べることのできない太陽や恒星の内部構
造を探る研究をそれぞれ日震学,星震学という。 その方法論を確立し,もって太陽および恒星の内部構造を解明す
る研究を行っている。以下に最近の成果を記す。 [9]
[12] [14]
- 音波の伝播時間を使った太陽外層の研究
太陽の音波の伝播時間を使って,太陽の表面下の構造を探る研究を行っ た。[6]
まず観測から音波の伝播時間の振動数依存性を求める方法 を示し,この観測結果を使って太陽内部の音波
cavity についての外側の壁の形につ いての情報 が求められることを示した。また,
米国国立太陽天文台の研究者と共同した研究においては, 高周波の音波の伝播時間から音源の位置が求め,光球直下約100kmという結果を得た。
[4]
- 音波の走時図を使った太陽外層の研究
尾崎(現在は長崎大学教授,本学名誉教授),米国デラウェア大学のJefferies,米国国立太陽天文台のHarvey,
D'Silva,NASA/GSFCのDuvallと共に, 太陽表面での音波の臨界振動数(約5.3mHz)より高い振動数の波動について
研究を行ない,果たして, 本当に,これらの波動が光球面もしくはコロナと彩層の境界面で反射される事が
ないかを,観測データを詳細に検討して見る事にした。 その結果,従来の解釈とは異なり,これらの波動も,
光球面もしくはコロナと彩層の境界面で反射されている事が判明した。 そこで,太陽の音波モ-ドが,太陽コロナと彩層の境界で反射される
可能性について,観測的に検証する方法について検討し, もし音波モ-ドが太陽コロナと彩層の境界で反射されるとすると,
走時図(音波の伝播時間と伝播距離の関係を示す図)上のリッジ構造に,2重構造
(doublet)あるいは3重構造(triplet)として見える筈であるとの予想を立てた。
そしてアメリカ側の観測デ-タを調べたところ,実際に2重構造があることが
確認できた。これにより,太陽振動を使って太陽外層を探査することが出来るように
なった。 [5]
- GOLFで検出された高振動スペクトルの解釈
太陽の5分振動は, 太陽内部のcavityに捕捉された音波の固有振動であることは,
よ く知られている. この音波のcavityの外側の境界は太陽表面近傍での密度の急激な変化
による波の反射, 内側の境界は内部へ向かっての音速の急速な増加による反射で作られ
るものである. ところが, ある程度周波数が高い振動に関しては, 波は太陽大気中を音
波として伝播し, 反射が起こらないことが知られている. 反射が起こるかどうかの境目
になる周波数は, 太陽大気の臨界周波数と呼ばれ, νac~5.4mHzで与えられる.
観測的には, 水平方向の波数lが大きな太陽振動の場合には, パワースペクトルで
臨界周波数を越えた高い周波数の領域までピーク構造が続いていることが知られていた
が, その理由は判っていた. しかし, 水平方向の波数lの小さいモードについては,
臨界周波数以上のピークの存在はこれまで知られていなかった. 今回,
SN比の極めて高いSOHO衛星に搭載されているGOLF(太陽面を像分解せずに,
ドッ プラー速度を測定する)の観測で, 臨界周波数(約5.4mHz)より高い周波数パワースペ
クトルが, 離散スペクトルピークを示す事が判った. 像を分解しての観測ならば,
この ような高い周波数でも離散スペクトルが現れ, その原因が何かも判っていたが,
太陽面 を像分解しない観測では, このようなスペクトルは期待されていなかったのである.
尾崎と柴橋は, 米国国立太陽天文台のJefferies, フランスのGarcia らと共に,
GOLFで観測されたこれら高い振動数の振動が, 地球に面している太陽光球近傍で発生し
た音波が, 反対側の太陽面で, 反射されて戻ってきたものであると解釈すべきであるこ
とを見出した. [1] [2]
- 日震学に基づく太陽対流層のモデルの構築
日震学で得た太陽内部での音速分布を基にして, 太陽対流層の密度, 圧力, 温度分布
を求めた.化学組成は, 上に述べた輻射層の内部解で決まる輻射層最上部 の化学組成に等しいとする.恒星内部構造を記述する4本の微分方程式のうち,
対流 層では光度は一定なので, エネルギーの式は最早考慮しなくて良い.対流による輸送
と結び付いた温度勾配の式も, 温度は音速と圧力を使って状態方程式から導けるので,
考慮しなくて良い.解くべきは, 連続の式と静水圧平衡の2本の式で良い事になる.
これは, 境界値問題で, 外側の境界条件は, 太陽半径で太陽質量になる事であり,
内側の境界条件は, 対流層の底で, 温度勾配が輻射温度勾配になるというものである.
この解は, 輻射層の内部解につながらなければならない.こ の対流層の外部解と輻射層の内部解がつながる様に,
解として, 対流層の深さが決ま り, 化学組成が決まる.GONG, SOHO, HLH等のデータによる,
解析結果を求めた. 日震学では, 音速の傾きが大きく変わる深さから, 対流層の深さを知り,
ヘリウムの 電離層での音速の変化から, ヘリウム量を決めてきた.音速分布の局所的情報に基づ
いた決定をしていたのだが, 今回の方法は, 音速分布の全体の様子から, これらの量
も決定するというもので, 従来の方法と相補的なものとなろう. [21]
[22] [23]
- 太陽内部モデルの構築と太陽ニュートリノ・フラックスの評価
太陽の内部構造は,太陽振動と太陽ニュートリノ問題に関して詳細に議論検討
されてきた。しかしその議論の多くは,標準恒星進化論に立脚してその範囲内でモデル
を精密に作り,モデルの振動数とニュートリノフラックスを観測量と比較して問題を議
論するというものであった。 そこで,太陽の音波モードの振動数から太陽の内部構造のモデルを作成する方法を考
案した。 [8] [10]
高田と柴橋は, 対流層の深さ,音速分布を満 たすべき境界条件として,モデルを構築
した。 これらは,全て現在の太陽に関する観測量であるので,より実験データに基づく,
現在の太陽のスナップショット・モデルと言って良い。 太陽は静水圧平衡にあると仮定する。
更に太陽は熱的平衡にあると仮定する。 物理素過程として,熱核反応率と吸収係数の物理は正しいとすれば,
これにより,太陽内部の温度分布と組成分布を決める事が出来る。 重元素と水素の組成比として,表面で観測される組成比を採用し,重元素の分布は
内部で一様すると,太陽内部での水素とヘリウムの分布は,解として定まる。
密度,圧力,温度も解として定まる。 こうして太陽モデルを構築する事が出来,これから,ニュートリノ・フラックス
を評価する事が出来るようになった。結果は, pp-ニュートリノ, 7Beニュートリノ,8Bニュート
リノは,それぞれ,
Cl,Kamiokande,Ga実験の測定値とは有為に差がある。 [18]
[19] [20]
[24] [28]
[29] [30]
[31]
- ニュートリノ振動理論の日震学に基づいた検討
太陽中心部での熱核反応で発生するニュートリノを検出してその量を測定する実験
では, 測定値が理論値と大きく異なるという大きな謎を呈してきた.測定に大きな
間違いがないとすると, この問題の解決案としては2つの可能性しかない. 太陽のモデルの不備が原因で理論値が間違っているか,
ニュートリノの物理理論に間違いがあって理論値が間違っているか, である.
従来, 太陽モデルとしては, 進化理論に沿って作ったモデルが使われていたが,
これには不定性が残っている. そこで我々のグループは, 太陽振動の観測(日震学)からわかる太陽内部の
音速分布の制限を付けた, より実験測定に基づいた太陽モデルを構築して検討したが,
この現在最も信頼出来るモデルでのニュートリノ発生量の予測値も 実際の検出値を上回る事が判った.
そこで, 今回はもう一つの可能性であるニュートリノ物理について議論する.
ニュートリノ物理でこの話題にもっとも興味深いものは, ニュートリノが質量を持つ
とすると, 太陽中心部で発生した電子ニュートリノνeが, 地球上の検出器に到達する間にミューニュートリノνμに
変わってしまう,
ニュートリノ振動と呼ばれる現象の可能性である.この効果は, ニュートリノの質量固有状態(ν1,
ν2)とフレーバー固有状態 (νe, νμ)の混合角
θと, 2種類のニュートリノ質量固有状態の質量の自乗の差 Δm2
= m22 - m12
の2つのパラメータに依存している.もし,
ニュートリノ振動で太陽ニュートリノ問 題を解決出来れば, 太陽ニュートリノ問題から,
これらの素 粒子論的パラメータを決定出来ることにもなる. このニュートリノ振動の効果も色々検討されてはきたのだが,
従来は, 前述の様に, 進化モデルが使われていたのであった. ここでは, 太陽モデルからの不確定性をより減らすために,
より実験に忠実な, 日震学に基づく太陽モデルを使う. また今回の計算では,
太陽内部をニュートリノが通るパスについてのニュートリノ輸送 も考慮に入れる.
これにより, Cl(Homestake), Ga(GALLEX), Ga(SAGE), カミオカンデ, スーパーカミオカンデによる,
太陽ニュートリノの観測結果と合うような, ニュートリノ振動のパラメーター域を決定した.
- lの低・中次のモードの振動数の長期変動の意味するもの
太陽の固有振動数が太陽活動と共に変化していることが,観測的に発見されている。
特に,中位のlのモ-ドについては,振動数の変化は 振動数には強く依存するものの,指数lにはあまり依存しないことが
BBSOの
グル-プの観測により,明らかになってている。この弱いl依存性は,固有振動数
の変化を引き起こした太陽の構造の変化は太陽表面近傍(光球直下約200km以内)で
起こっていることを示唆している。このl依存性をlの低次のモ-ドにまで
拡張すると,l=1のモ-ドの振動数変化量はl=50のモ-ドの 振動数変化量の約1/3から1/4であると期待される。
ところが,BISONやTenerifeのグル-プ等の実際の観測では,lの低次のモ-ドの
振動数の変化量はl=50のモ-ドの場合と同程度であると報告されている。
そして,この事をl=1のモ-ドだけが達するような太陽の内部深部の 構造に変化が起こっているからであるとする解釈が提案されている。
柴橋は,音速分布の非球対称成分を考慮することにより, 低次から中位のlのモードの振動数変化が,太陽深部の構造の変化ではなく,
太陽表面近傍且つ太陽赤道低緯度帯の構造の変化で統一的に説明がつく事を示した。
[6] [11]
- A型特異星の脈動の理論的研究
A型特異星(Ap星)の脈動の精密な観測からこれまで以上に複雑な振動スペクトルの
微細構造が発見された。これを説明するために, 強い磁場を持った回転している星の振動を定式化し,その説明に成功した。磁変星の
場合,振動数スペクトルの微細構造から,その内部磁場に関する情報が引き出せるの
で,今後,このような高速脈動の精密な解析が有用である。 [13]
[16] [26]
磁場を考慮に入れた場合, 恒星の固有振動がどのようになるかを摂動論を使って調べ,固有関数
の摂動における,選択則を見いだした。 [25]
- β Cephei の Oblique Pulsator Model と星震学
Aerts らによって発見されたβ Cephei の振動数スペクトルの5重項の解釈とし
て,Oblique Pulsator Modelを提唱した。 振動数スペクトルは5重項と,それに近い振動数の単一項から
成り立っている。5重項は等間隔で,その中心の項が際立って大きい振幅を 示している。また,各成分のlをスペクトル線のプロファイルの
モーメント解析から,
5重項の中心項がl=0, 他の5重項成分及び単一項はがl=2であると考えられている。
このOblique Pulsator Modelに基づくと,5重項の特性が自然に説明がつく。
更に,l=2である単一項の振動数が, l=0である5重項の中心項の振動数より
高いことに着目し,この様な事が起こるのは, l=2のモード同士が``avoided
crossing''を起こす場合で ある事を指摘し,この事から,星の進化段階とモードを同定した。
[15]
- 琴座 RR 星型星のBlazhko 効果の解釈
Blazhko 効果とは,琴座 RR 星型変光星に見られる 長い周期の変動を指す。通常の変光周期は
約0.3日から0.7日で,この効果の周期は 30日から数100日程度である。この効果
は Blazhko により 1907 年に発見されたものであるが,現在に至るまで理論的な定説
はない。この Blazhko 効果を単一のモードの振動 が磁場と自転によって変化することで説明しようと試みている。
[17] [27]
Next: 過去数年間の論文リスト Up:
研究 Previous: 研究